Δトップページ    Δ書庫メニュー
小さな石でできた塚にはセルジュの名が刻まれていて、
そしてそこに立っているレナを、おれはみつけた。

「こんなとこで、何してるんだ?」
海に沈もうとする太陽が放つ光で、岬の全てが茜色に染まっていて、
振り向いたレナの髪は燃えるような赤に見える。
「グレンこそ、どうしたの?私に何か用?」
レナはいつでもそっけない。
顔立ちや服装は、本当に清楚な少女らしいものなのに、
その性格といったらキッドと並ぶ跳ねっ返りだとおれは思う。
そんなことを言おうもんなら、キッドと二人がかりでボコられそうだけど……。

海からさあっと風が吹き、真っ赤に映えたレナの髪が大きくそよいで、
おれはちょっとまぶしくって目を細めた。
同時に、手入れをさぼるせいで白髪みたいなおれの銀髪は
どんなふうに夕陽を映しているのだろうと、らしくもなく少し気になったけれど。
そんなおれの気持ちには全く気づく様子もなく、レナは少し首をかしげた。
「セルジュか誰かから、ことづてでも頼まれたの?」
「いいや。時間も遅いし、姿が見えないから心配になって来ただけさ」
「そう……」
またそっけなくそれだけ言って、レナは海のほうを向いた。
よく見ると、彼女は塚よりも前、崖っぷちぎりぎりのところに立っていて、
おれは少しひやりとした。崖の下には珊瑚と砂浜。
落ちても大丈夫なのはポシュルぐらいだ。
だけどわざわざ一人でこんなとこにいる彼女に
あんまりうるさく話しかけるのもなんだし、
おれだって情緒のわからない無粋者じゃあないし、
ここはひとつ、少し離れて見守ったほうがいいか…?
などといろいろ考えていたとき、ふいにレナが、海のほうを向いたまま言った。

「グレンには、幼馴染はいるのよね、兄弟も」

その声は、おれが懸念していたよりもずっと明るく澄んでいて、
特に怒ったり悲しんだりはしていなかったようだ。
気の回し過ぎだったかな。
「ああ。リデルお嬢様やカーシュは、小さい頃から知ってるよ」
「そう。いいわね」

セルジュの、ことだろうか。
もう一つの世界からやってきた少年。
にわかには信じがたいことだらけだったけれど、
事実を見せられてもなお信じようとしないなんて愚かだ。
(と、兄さんなら言うだろう)
そして、彼からみて異世界のこちらでは、
10年前に、セルジュという少年は死んでしまっているという。
そこにある塚が、彼の墓で、そしてレナは、セルジュの小さい頃を知っている人。
おれはまだ会っていないけど、セルジュと行動をともにし始めてから
「もう一人の自分」に会ったやつも多い。
レナもつい先日、もう一つの世界のレナと会って来たようだ。

「あっちのレナは、何してるんだろ。
 幼馴染が大変なんだから、ついて来れば良いのに」
「しょうがないさ。村では子守りとか、たくさん仕事があるんだろ?」
「それはそうだけど…」
言い方がまずかったかな、とやっぱりおれは反省した。
今、レナはその仕事を置いて、セルジュの旅について来ているのだから。
けれどおれの言葉に別段腹を立てた様子もなく、レナはまた海に目をやった。
「セルジュの幼馴染はレナだけど、わたし、は、その幼馴染ですらないの……」
風に吹き散らされそうに小さな呟きは、でも、おれの耳にはちゃんと届いた。
不安と不満と焦り。そして、おそれ。
そういったものがごちゃっと混ざった影をレナの横顔に見てとって、
つられるようにしておれも、ちょっとだけ慌てた。

つい考えこんでうつむいた俺の目が、レナの足もとに止まった。

ひびが入っているように見える。

そのひびが、音もなく左右に走ってゆくところも見えた。

レナの足元が崩れるのと、おれがレナに飛びつくのと、
レナが叫ぶのと、一体そのどれが早かっただろうか。
レナの身体を抱きかかえるようにして宙を舞うおれの目に、
迫り来る珊瑚が、砂浜が、スローモーションのようにのろのろとながれてゆく。

「フ ラ ッ ド !!!」

おれの腕の中のレナが、くぐもった声で叫んだ。
呪縛が解けたように、色と音が現実の速度を取り戻したと思った時、
砂浜に轟音をたてながら大きな波が押し寄せて、

おれ達は、ざぶんと水しぶきをはね上げて海に落ちた。


ちいさな津波が引いたあと。
「は……はーくしょんっ!」
鎧のすき間から、じゃーっと音をたてて流れる潮水を見て、
おれはちょっとだけ情けなくなった。
とっさに、落ちてゆくレナをつかまえて抱きかかえたけど、
あのまま二人で墜落して無事だったとはとても思えない。
むしろ鎧をつけたおれが無理矢理つかまえていっしょに落ちるなど、
余計に危険だったような気がする。
それも、全ては彼女の機転によって事無きを得られたけれど。
「怪我は…ないみたいだな。良かった…ぁっくしょん!!」
「ええ、大丈っくしゅん!」
エレメントからなる潮水で全身ずぶ濡れになり、
どうやら二人そろって風邪を引いてしまったようだ。
ささやかな自己嫌悪で消沈した様子のおれのほうを向いて、
おどろいたことにレナは、目を伏せて謝った。
「本当にごめんなさい。私のせいで、危ない目に……」
「おれこそ、すぐ横にいながら何も……っくしょん!
 レナのフラッドがなかったら……ぁっくしょん!!」
「っくしゅんっ!」
返事のかわりにクシャミをしたレナがむしょうにおかしくて、おれはつい笑ってしまった。
「何よ!グレンだって……あははは、っくしゅ!」
レナも笑いだして、ひとしきりずぶ濡れのままおれたちは笑いあった。
まわりを見ると、たった数分のことだったのにすっかり陽が暮れて、
暖かい夜の潮風がゆっくりと空気を動かしている。
すっかり暗くなってしまったし、こんなハプニングがあったのだから
急いで戻ってティアを使わなくてはいけないところなのに、
潮風はちっとも冷たくなくて、おれはとてもおだやかな気持ちだった。
『崖から落ちて運が悪かった』とは思わなかった。
彼女が無傷だったことで、全てがこと足りた。

「はー……、でも、ほんとにびっくりしたわ。早く戻ってティアを」

そこまで行ったレナは、ぴたりと言葉を止めた。
おれがレナの手を引いて、そっと抱いたから。

怒って叫ぶかもしれない、つき離されるかもしれない、ひっぱたかれるかもしれない……

そんな不安が、ぐるりと大きく脳裏を一周したけれど、
一周しただけでするりと頭を抜けて、飛んで行ってしまったみたいだ。

レナがそっと、おれの背中に手を回してきて、
おれの心臓は改めましていま一度、大きくジャンプした。
「うっ、うっ……」
レナは、おれの胸に顔を伏せて、小刻みに肩を震わせている。
「怖かった…ひっく、ぐす……怖かったわ」
「うん、大丈夫、もう大丈夫だ……無事で良かった、本当に」
子供のように泣きじゃくるレナを優しく抱いたまま、
おれはそっと岬を見上げた。
真上には大きな月がかかり、崖の上には小さな塚がくっきりとシルエットになって見える。

そうだ、セルジュについて行くこの子を、おれはずっと守ってゆこう。
彼女の不安や悲しみを消すことはできなくても、
そばにいて、一緒に笑いあえればそれでいいんじゃないか。
それは多分に悲しい決意で、おそらくは、皮肉にもレナの気持ちと
同じものなんだろうと直感でわかったけど。
おれはもう、決めていた。
この子がこんなふうに肩を震わせて泣くことが、もう二度とないように。


Fin.


なんとなくグレン×レナ。
両方好きだからくっつけちゃえ〜ってのはいけませんか。
ねえいけませんカ!(しつこい)何はなくともカップリング駄文。
書いてる私が楽しければ良いのよ!!!(ギャッ!さいてー!!)
なにげにグレン視点ですが、男の思考回路ではない気が……。もういいや。知らん(ぉ)
クリアして半年ほど経つし、ソフトも知人にあげちゃったし、
仲間になるこいつらってアナザーだっけ?ホームだっけ?
ってこまかい設定を調べるために攻略サイトのハシゴしちった。(いつものことよ)
覚えにくく忘れやすい脳みそを持つと、ホント何かと苦労するよ。
頭の冴えてる人はご両親に感謝するべきっすよ!まったくもう(羨)

2000.7.24.mionosuke.